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CEOの伊村です。新型コロナは年単位で続きそうな印象ですね(#ImuraAkihiro on Twitter2022年5月)、弱毒化したと言われますが、それはヒト側の免疫防御が強化されたために症状が軽く見えるに過ぎず、ウイルス自体の毒性が低くなったわけではありません。ウイルス自体が強毒化するリスクは、SPIKE変異にかかっています。ヒト細胞受容体ACE2以外の分子に変異SPIKEがマッチしてしまったら、今までと異なる細胞に感染する病気になり、新たな症状のウイルス感染症が誕生するかも知れません。気道上皮細胞と血管内皮細胞に侵入する特性に加え、例えば、神経細胞にも侵入するようになれば、重症者が増えるかもしれません。進化速度の予想は難しく、100年かかるかもしれないし、1ヶ月かも。別のウイルスに変身する可能性がどの程度あるのか、今のサイエンスでは予想できません。いかなる事態も理論的に対応するのが科学者の義務と考え、COGNANOでは実在する変異を網羅的にトラックし、防衛できる抗体のデザインを探索しています。この研究は、むしろ数学の問題として、将来ITチームが論文として発表していきたいと思っています。

今回の伊村ブログは、11月に合衆国を周回した印象を書き留めてみます。このたび支社(COGNANOUS, Inc.)をアメリカに登記し、さまざまな方にお会いしてきた記録でもあります。LA-San Francisco-Seattle-Boston-NY-LAを、協力いただける方々にお会いしてご挨拶した格好です。大学研究者、投資家、インキュベータ、製薬、R&D、エージェント、州役人、、、日本のエンジェルをはじめ、JETRO(京都、サンフランシスコ、ニューヨーク各拠点)、公益財団法人京都産業21の皆様、大手バンカーチームのご支援が欠かせませんでした。

サウスサンフランシスコ市にはスタートアップ、製薬、R&Dの巨大なバイオクラスター地区が出現。SFOの近くでStanfordにも近い。行政が投資し入居を推進している。

日本にいて、この頻度で面会を続けたことはありません。合衆国では、有名な先生も気楽に会ってフランクに議論してくれます。スタートアップの立場で面会したのはこれが初めてでしたが、アカデミア所属だった時と対応は変わりません。もちろんコンテンツは大事だし、その予感や紹介がないと会ってくれないのも事実ですが、、、胡椒、シルク、紅茶、コーヒーを貿易し、今では情報と価値をトレードしている…という世界経済の歴史が文化を形成しているのかもしれません。情報交換しない者は負け、というルールがありそうです。

一つエピソードを記します。 2013年当時、大学研究者だった私は、バイオ医学の物質主義を打開したいけれど解決法が思いつかず、悩んだ挙句ハーバード医学部長Kronenberg教授にお願いし、セミナーをさせていただいたのでした。当時合流して研究していた前田開発部長も同行しました。下手な英語で1時間以上セミナーさせていただき、とても楽しかった記憶があります。セミナー後、Kronenberg先生に4畳半くらいの教授室に連れ込まれ、説教込みでお話しいただきました。その時の経験から、コンテンツは負けない、という手応えをえたのでした。とはいうものの、おいそれと連絡もできず、また、コロナもあったしご高齢なのでどうだろうと思ったところ、Kronenberg門下の友人から、MGHに行けば今でも会える、という情報が。

MGH マサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタル(ボストン)Kronenberg先生は相変わらず眼光鋭く深い。

9年前と同じ小部屋で久闊を叙したのち、早速COGNANO支社がアメリカにできたこと、今はITエンジニアにめぐりあい、ハイブリッドチームに成長して、自力ではできなかったバイオ情報の数学化に進んでいる、とお伝えしました。COGNANOは、バイオを幸運やセレンデピティーではなく、サイエンスとして一般化したいんだ、と。その産物として、あらゆる変異型に通用するコロナ医薬を開発できているとも。Kronenberg先生、途中で話を止め、ニヤリと笑って「わたしは日本語わかりませんが、ITエンジニアにバイオデータを通訳する方が、もっと難しいでしょう?異民族だもんなあ。cool…」要点を突くコメントです。技術のみならず、異言語民族が合同しているところを評価してくれたのです。本質を見抜くセンスはやはりすごいと思います。情報価値を見抜くスピードが、アメリカの強さと言えそうでした。

最後に、この稿の目的である「パンデミック後の世界」を予想してみます。コロナ以前の問題として、まずヒトは生物であり、食べ物も全て生命である限り、知りたいことは「生命とは何か、自分とは何か」でしょう。地球以外の星に生命は見つからないので、極めて特殊なシステムであることは疑いなさそうですが、どれくらい「ヤバイ」存在なのか、比較対象がないので帰納的に考える手がかりがありません。では演繹的にと言えば、生命システムの階層性に阻まれています。ゲノムの違いにおいてほとんど誤差レベルのチンパンジーとヒトが、なぜ、どのように違うのか、の理路は示すことができません。どちらからも行きづまる構造が、バイオの速度が上がらない主原因だと私は考えています。

しかしながら、例えば流通産業がITテックと結びついただけで巨大産業になったことを思えば、もしバイオがITと結び付いたら、歴史的変換が起きるはずです。パンデミックで世界はいったん停止しました。国家間戦争という退行的な現象も生まれましたが、より知的な方向では、人生が生命情報ベースの営みに変化していくのではないでしょうか。生老病死から逃れられない以上、人生はバイオ基盤なのですから。ITが通信、金融、コマース、流通、教育、エンタメなどを次々に飲み込んでいった最後に、バイオを飲み込むのか。それとも、バイオはITを取り込んでエンパワーし、次の世界が生み出されるのか。もしイノベーションが起きる場合、最近30年の歴史をみると、やはりアメリカが主役を演じるのではないでしょうか。ダークホースとしてのインドと中国は、まだテクノロジーを追いかけている途中で、情報価値を見抜くセンスが追いついてないような気がします。

製薬の聖地ボストン・ケンドール地区。インキュベータビルCICで商談会。一つ隣はGoogle。9年前にはなかった。近隣のMITの学生に来て欲しいということ?あるいはGoogleは製薬したいということか?

余談ながら。

日本が発信したアニメは生命についての重要資料ではないでしょうか。ナウシカ巨神兵やエヴァンゲリオンは、明らかにバイオロボットであり、自律性に従って生まれたり変形したり増殖したり死んだり?します。電気羊原作版アンドロイドは、ヒトそっくりのニセモノでした。反転して映画版ブレードランナーでは「崇高で超越的な存在」でしたが、どちらにしても「仲間」ではない。西洋では「ロボットが心を持つ状態」はディストピア観ですが、日本人は「ロボットも本来ヒトの仲間であり、こころがないのなら注入してあげないと」と感じます。鉄腕アトムは「なぜぼくはロボットなんだろう」と悩みますが、これは既に「こころ」を持っていることを示します。漫画版ナウシカでは、ヒロインのナウシカ自身がバイオボットであったという結末が示され、不完全なボットである巨神兵やエヴァは少年少女によって「こころ」を注入され「ヒトと同様な生き物」になります。エヴァの登場人物は全員クローンかもしれないし、「クローンだとしても、ボクらは人生を生きる」までいく、、、バイオの究極課題は「こころはシステムなのか?」に行き着くだろうし、ITの言葉でいえば「ウェブは人間世界の上位階層(上位構造)になるのか?」にもなる。SFとアニメの世界観に従えば、欧米では「ウェブは帝王としてヒトを支配する」になり、日本では「僕らの意識はウェブと溶け合う」になるのでしょう。バイオとITが融合できるとしたら、日本文化にアドバンテージがあったりして。いや仮説の話ではなく、ウェブと合体したメンバーがすでにCOGNANO内で活動している気配ですが….これはもしかして。

次にKronenberg先生に会うときのため、COGNANOの課題を整理しつつ、帰国します。

  • 薬とは、疾患標的分子に対し、機能を付与する物質に他ならない
  • 標的分子を認識し、かつ機能付与を同時に実現できるツールとして、知られているかぎり抗体がベストである
  • COGNANOは、物質としてではなく生命情報として抗体を扱う。VHH抗体は大量の情報を取得できる良いウィンドウである
  • 一般化のために数学が必要であり、数学的リーチのためにはビッグデータが必要である
  • データは、自然が与え給いすでに目の前にある(ただし解読する気になりさえすれば)

それでは、次回の報告をお楽しみに!