研究

私たちは、巨大なバイオデータとコンピューターサイエンスを融合し、最も複雑で興味深い課題のいくつかに取り組んでいます。

VHH抗体

VHH抗体

われわれDNA生物にとって、ゲノムは終生変化してはならないものですが、抗体遺伝子だけはほとんど無限に変容することができ(ハイパーミューテーション)、後天的に獲得した抗体はウイルスや細菌やがんと戦ってくれる武器になります。その意味で抗体は自然が生み出した傑作です。進化上、八つ目うなぎなど軟骨魚類から発生しており、その後さらに複雑な形式(2軽鎖+2重鎖=4量体)を取るようになりました。1989年、アルパカ、リャマ、ラクダが持っている抗体の一部は、例外的に重鎖のみから構成されることが偶然発見されました。重鎖抗体はシンプルな構造だけに、解析が容易で工業生産にも向くことが期待され、ベルギーとEUの後押しでAblynxというバイオテックが誕生しました。ここで企画された「必要最小限にまでシンプル化した小型抗体」をVHH抗体、またはnanobodyと呼んでいます。なぜラクダ科動物が重鎖のみの抗体を持っているのかは、説明がついていません。一方、軟骨魚類が持つ重鎖抗体から同様のコンセプトで産業化が試みられ、こちらはIgNARと呼ばれています。実際、サメを使った抗体遺伝子を使って創薬シーズ開発が進んでおり、オーストラリアのAdAltaというバイオテックが筆頭です。

COGNANOは2014年創業以来、自社アルパカコロニーを持つ国内では唯一の企業として、VHH抗体の研究開発を進めてきました。その中で、VHH抗体をコードする遺伝子を次世代シーケンサで解読することにより、ラベル付きのビッグデータを獲得し、計算機科学により抗体のデザインや性能予言をできることに気づき、進化を続けました。わざわざ高価な動物を飼育している理由は、自然が作り出す抗体の多様性を至高のデータとして蓄積する意図があるからです。単に結合しやすい抗体を作るだけであれば、試験管内で選択、製造することが可能ですが、多様性はゼロになってしまいます。この辺りから、COGNANOは一般のVHH抗体メーカーとは一線を画し、抗体を物質として生産する会社というより、「バイオ情報」としてVHHを捉え直すことになりました。これにより、従来のバイオテックでは取得困難であったレアなシーズの発掘に成功しています。(例:TNBC乳がん、新型コロナ最新変異型対応シーズなど)

現在のCOGNANOには、複数のITエンジニアが参加して、単なるUNMET NEEDSの解決だけではなく、さらに高みを目指して機械学習による抗体デザイン汎用モデルの構築や、医療のパーソナル化に向けたプロダクトの開発に挑戦しています。

新型コロナウイルス

新型コロナウイルス

コロナウイルスは、以前からアジアに蔓延してきた「風邪ウイルス」の一種です。毎年冬にはやる集団風邪の多くは、RNAウイルスであるコロナが主な原因でした。2002年、中国で衝撃が走りました。急激に呼吸不全になって死亡するタイプの疫病が始まったのでした。これをSARS(重症急性呼吸器症候群)と呼び、単離された原因ウイルスはゲノムの配列からコロナウイルスに属していると考えられ、CoV1と命名されました。この時はアジア限定で、半年強で収束し、日本には入って来なかったのですが、それまで人類には知られていなかったウイルスなので、野生動物から感染したという説は有力でした。2019年、似た経緯で、またもや中国で疫病が発生し、分類上コロナウイルスであり症状も似ているが、ゲノムにさらに違いが見られたので、CoV2と名付けられました。武漢のウイルス研究所の付近から発生したので、人為的な変異ではないのか、という疑惑があります。いずれにせよ、一瞬で世界中に拡散し、「パンデミック」と呼ばれる状況に陥りました。全世界で700万人から1,000万人が死亡したと言われています。全人類に拡散するに伴い、ウイルスが長期にわたりエスケープ変異することによって、ウイルスが遷延する(人の免疫から逃れて生き延びる)現象が観察されました。インフルエンザとコロナは2大「風邪」ウイルスですが、両方ともRNAウイルスであり、ヒトの免疫能力(ワクチンも含む)を回避する能力を持ちますので、ヒトがウイルスを制圧できる可能性はほとんどありません。古典的コロナと同様、何度も罹患する可能性があります。その中で、どこまで有効な治療法や予防法を張り巡らせるのか、という「防御側のテクノロジー」が人類の知恵となってきます。

COGNANOは、全ての新型コロナ変異型をアルパカ由来のVHH抗体データとしてトラックしており、全変異対応型・感染予防薬を開発すべく、データに基づく機械学習で社会に貢献しようとしています。この試みは論文として、次々に公表されつつあります。ウイルス実験は京都大学及び東京大学、構造生物学は大阪大学との協力で進められました。ファイザーやモデルナがmRNAワクチンを歴史上初めて実用化した快挙と並んで、VHH抗体遺伝子を情報化して計算機科学で変異ウイルス対応の創薬を理解できるようになったことは特筆すべきことです。パンデミックをきっかけとして、あらゆる疾患の創薬がITで実現する時代に移行するとき、新型コロナを奇貨として技術を鍛えたCOGNANOのインパクトが明らかになると期待されます。

トリプルネガティブ乳癌

トリプルネガティブ乳癌

乳がん患者は、北米だけで年間40万例の新規発生があります。女性に限れば、死亡率の第一位です。また、日本においてもずば抜けて発症率が上昇している疾患が乳がんであり、食習慣の影響が疑われています。がん細胞の病理分類として、60%がホルモン受容体陽性、20%がHer2陽性と言われており、残り20%近くが、分子マーカー不明のグループとしてTriple-Negative Breast Cancer(TNBC)と包括的に呼ばれています。乳がんの中でも、TNBCは若い女性に多く、劇的に進行し、確実な治療法がないことで知られており、確定的な診断法がないこともあいまって、最も恐れられているカテゴリーです。もし特異的な分子マーカーを見つけることができれば、TNBCを構成している複数のサブタイプを定義できる上、創薬への突破口になるはずで、長年に渡って多くの研究者が標的分子探索をトライしてきました。しかし多大なる努力にも関わらず、現状ではTNBCの標的分子マーカーで確実なものは発見されていませんし、存在するかどうかさえも考察できない状態です。しかし、もしこのような標的分子が「存在するのならば」、人の知力で掘れないだけかもしれません。

そこでCOGNANOは、オリジナルのVHH探索技術により、半年かけて探索し、有力候補を複数掘り当てることに成功しました。COGNANOの技術は、「標的分子が不明」だとされている他の疾患、例えば膵癌などでも、威力を発揮する見込みがあります。創薬ターゲットがあって初めて成立する現在創薬の盲点である、「標的分子がわからない」という理由で創薬不可能な疾患をUNMET NEEDSと言いますが、COGNANOは計算機科学の力により、独自の解決を提案します。