こんにちは、COGNANO代表伊村です。今回はAI創薬基準評価委員会SEPIQ(Sequece-Based Epitope Prediction Intelligent Query)立ち上げと、経産省補助事業準備のためリトアニア、ポーランドにご訪問したお話です。
昨年10月、経産省の令和6年度補正「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(ウクライナ復興支援・中東欧諸国等連携強化)」に採択いただき、3年にわたる国際事業実証に着手しました。募集要項には、「破壊されたインフラの再建やエネルギー供給等による復興をウクライナ現地及び周辺国から支援するため、本邦企業が行う事業実施可能性調査事業及び実証事業の実施に必要な費用の一部補助を目的とする」と定義されているプログラムです。
私たちは、「破壊されたインフラ」として、破壊された物質ばかりではなく、戦禍で機会を奪われた優秀なヒューマンリソースや医学リソースも該当すると考え応募しました。なぜなら、世界市場からの求人や要望は、物質支援にも増して支えになると考えたからです。昨年7月に政府ウクライナミッションに参加させていただいて以来、提携を打診したアカデミア、団体、法人、企業には、早速この嬉しい展開をお知らせし、事業開始のゴーサインをお待たせしているところです。

グローバルサウスとは、近年の世界経済の有り様の変化から、中東欧、中東、インド、東南アジア、南米などの、かつて「第三世界」と呼ばれていた地域を指すようです。経済成長が著しい地区を含む「現代経済用語」で、今回のプログラムでウクライナ復興を支援するためには、中でもバルト3国やトルコなどが重要な拠点になってきます。ポーランドはグローバルノースに分類されるのかもしれませんが、ウクライナ避難民の最大受け入れ国である以上、今回のプロジェクトには欠かせない地域です。日本がウクライナをはじめとするCEE(中東欧)と事業提携、雇用創出、ビジネスモデル創出を、3年後には営利事業段階まで持っていくための実証という定義です。政府方針に沿って、COGNANOは3つの方向性を打ち出しました。
- 優秀なITエンジニアを雇用し、「日本企業である私たちがグローバルで成果を上げられる」実績を証明する
- リトアニア、ポーランドの、特にIT系およびバイオ系における産学官の方々と繋がり、日本企業がビジネスとして貢献できる経済環境を形成する
- COGNANOの最終的なサービスは「創薬・ヘルス」なので、グローバルサウスにとどまらず、最終市場である米国、英国、西欧、日本にまで進出し、マーケットで存在感を示す
ウクライナの才能を日本企業が活かす
私どもの初動に対し就職希望が相次ぎ、予想が正しかったことを確信しました。早くも3人のウクライナ国籍エンジニア(Olexandra, Ihor, Anastasiia)と、英国ケンブリッジ博士課程(ヒロさん)の雇用を実現することができました。本事業初年度は、AI創薬の世界トップレベルを目指し4人とどこまでやれるか、切磋琢磨することになります。このアクションは、上記1.に当てはまる動きです。




IT大国ポーランド・リトアニアとの連携
2.に関しては、まずはリトアニア、ポーランドとの産学官連携を目指します。リトアニアは、ソ連離脱後EUに加盟し、隣国エストニアに刺激される形でIT立国に成長し、加えてバイオ産業を推し進める機運に満ちた国です。またポーランドは、今や欧州のライジングスターと言える国であり、経済およびイノベーションの成長は目を見張るものがあります。急成長中のポーランドの原動力は、IT産業ですが高等教育カテゴリーにおいて数学やIT関係の占める学生比率は25%(日本は15%)、世界ITランキングは国別で3位と驚異的です(ちなみに日本は40位)(HackerRank社ランキング)。
ChatGPTはアメリカの企業ですが、主要アルゴリズムはポーランド人研究者が構築したというのは有名な話です。古くは、ドイツ第三帝国の軍事暗号エニグマ解読を主導したのは英国のアラン・チューリングですが、スタッフは亡命ポーランド人数学者だった歴史があります。さらにポーランドはキュリー夫人を輩出した国だけに従来からの化学国でもあります。バイオに関しては、旧ソ連が共産主義思想により遺伝子工学を抑圧したため遅れていましたが、近年はバイオ創薬に力を入れ、巧緻な創薬エコシステムを構築しています。加えてEUに所属する利点を活かし、欧州医薬品庁(EMA)にダイレクトにリーチすることができます。
さて、このような国々とパートナリングして3年間で目標を達成するために、何が有効な戦略なのか?そこでわたしたちはCOGNANOが創業以来培ってきたデータサイエンスを持ち込むという決断をしました。
世界基準のAI創薬評価委員会「SEPIQ」の始動
このような背景から、3.の実証を目指す意味で、私たちが昨年から準備を始めAI創薬評価委員会をたちあげ、世界に承認してもらおうと考えました。このプロジェクトが日本や中東欧だけではなく世界に届きやすいように、RSCB PDB議長のバーリー教授、CAZy議長のベルナール・ヘンリサ教授に、運営委員として参加していただきました。世界コンソーシアムであるOpenFoldの共催も決定し、さらに日本からはAMED-BINDS(プログラムスーパーバイザー井上豪教授)の協力をいただくことになっています。大阪大学(難波啓一教授)に抗原抗体複合体像のクライオ電子顕微鏡解析を実施いただくことが決定しました。このフットワークの軽さが、本プロジェクトの肝となります。
SEPIQ運営委員








AI創薬プログラムSEPIQのタスクは、疾患と密接に関わる分子構造の異常をコンピュータで予測することです。生物由来のリアルな抗体アミノ酸配列情報は弊社が把握しているものの、配列だけでは抗体の構造は分かりません。それゆえ2つの課題を解く必要があります。
- 抗体の構造がわからなくても、アミノ酸一次配列情報だけで抗原エピトープがわかる
- 標的となるエピトープ構造(=抗体が結合する標的部分)を予測できる
まずは前半の課題を解くことをテーマとして開催します。

その際、「どのような評価基準を持って優位なモデルとするか」が重要です。この根拠を確実にするためCAPRIという分子間相互作用世界評価委員会と共催することになりました。
CAPRI運営者 Lensink 教授(Lille UGSF)Bonvin 教授(Utrecht大学)にアドバイスをいただきつつ、Vilnius 大学 Kliment 博士 が本格的にSEPIQの審査員として審査基準を策定します。11月にリトアニアで出会ったKliment 先生は、バイオ計算科学のトップ科学者で、ボロノイ図を用いたタンパク質構造解析ソフト「Voronota」の開発者です。構造生物学のコミュニティではその名を知らない人はいません。そればかりではなく、リトアニアの柔道チャンピオンであり、文武両道ぶりに畏敬の念を抱かざるを得ません。




また国際コンソーシアムである OpenFold には、日本からただ1社が参加して2年経過し、世界トップ企業やMLリサーチャーに向けて発信できる態勢が整っています。
本事業においてタイアップを目指すポーランドへの訪問
経産省ご支援のおかげで、ご縁と環境に恵まれ、優秀人材の獲得、CEE諸国へのコンタクト、世界クラスのAI創薬評議会開催を実現できたことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。3月は、このような状況で、タイアップいただきたい重要国ポーランドにご訪問しました。クラクフのAGH大学、Jagiellonian大学にご訪問し、COGNANOが持つVHH抗体のビッグデータに関わる可能性と共同研究の提言。バイオ系としては、National Oncology Institute(キュリー夫人自身が創立したマリア・スクウォドフスカ・キュリー記念国立腫瘍学研究所)の肉腫・メラノーマ統括チームと共同研究の可能性について議論。ポーランド政府機関は、豊富なバイオ創薬育成経済システムを持っており、ポーランド研究者が主導し海外機関も参加できます。ワルシャワの日本大使館様の肝煎りで、3月3日にはB to BイベントでNTT DATAとCOGNANOが、日本とポーランドの架け橋となるビジネスの提案と紹介を行いました。




ポーランドにおける一連のネットワークについては、IT側からはCOGNANOが有するデータセットに対して、またバイオ側からはCOGNANOが次々に生み出す抗がん剤パイプラインについて、それぞれ熱い期待をいただきました。以上が昨年11月からのご報告です。
大きな視点で言えば、今回のアクションは全て、ゲノミクス、プロテオミクス、シングルセル解析に続く、第4の創薬原理「構造生物創薬」のパワーを世界に知っていただくためのプロジェクトです。データサイエンスを基盤として世界に躍進するCOGNANOにご期待ください!