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AIで発見した「新規バイオマーカー」に基づいた抗がん剤開発をスタート — 大学とDeep Techが切り開く新しい創薬の姿

2023年8月9日

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大阪大学大学院薬学研究科 井上豪 教授、生命機能研究科 日本電子YOKOGUSHI協働研究所 難波啓一 特任教授(常勤)、九州大学大学院薬学研究院 大戸茂弘 教授らのチームは、Deep Tech ベンチャー (株)COGNANOと共同で、バイオマーカー*1が発見されていない難治がんを解決する抗がん剤開発に乗り出します。これまでトリプルネガティブ乳がん(TNBC)*2は、標的となるバイオマーカーが発見されておらず、治療のための創薬が困難でした。バイオマーカーが不明な疾患をアンメットメディカルニーズ*3と呼びますが、TNBC以外にも膵がん、胆管がん、肺小細胞がんなど、多くの疾患が未解決のまま残されており、将来に向け大きな課題となっています(図)。

本事業では、ビッグデータを用いて新規バイオマーカーの探索に取り組むCOGNANO社と、大阪大学大学院薬学研究科/生命機能研究科、九州大学大学院薬学研究院が共同で、新規バイオマーカーを認識する抗体を用いて抗体薬物複合体(ADC)の開発に向けて研究を進めます。

本事業は、8月9日の大阪府知事定例記者会見において発表された通り、令和5年度創薬シーズ研究開発費補助金として採択されました。事業名称は「新規がんマーカーを標的とするVHH創薬の高速プラットフォーム戦略(トリプルネガティブ乳がんADC創薬のフィージビリティスタディ)」です。

研究の背景

トリプルネガティブ乳がんは、薬の標的となる分子(バイオマーカー)が発見されていないがんで、治療法が確立されていません。

Deep Tech ベンチャーの株式会社COGNANOは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)のがん細胞表面を特異的に認識するアルパカ由来抗体(VHH)*4を、ビックデータAI技術を活用した採掘技術を駆使して探索する技術を複数取得し、特許出願しています。

これは、抗体創薬を迅速に開始できるばかりではなく、新規バイオマーカーの発見も意味し、一石二鳥の創薬手法と言える、世界で初めての方法論です。

研究の内容

今回、株式会社COGNANOの方法論と合わせて、大阪大学大学院薬学研究科/生命機能研究科と九州大学大学院薬学研究院が協力してデータ取得を高速化します。

大阪大学大学院薬学研究科と生命機能研究科の構造生物学*5の研究チームが、連携して開発した世界に誇る最新のクライオ電子顕微鏡(タンパク質などを瞬間的に凍結させることで構造を保ったまま観察できる装置)の技術を用いて、これらの抗体ががん細胞とどのように結合するか、詳細な分子構造を明らかにするとともに、抗体に抗がん剤を結合させた薬剤(抗体薬物複合体: ADC*6)を開発して、抗がん剤を患部に直接送達する治療効果をマウスモデル*7で検証する予定です。

本事業でデータを蓄積し、未だ治療法のないTNBCに対する創薬の問題を高速に解決することをめざします。

本事業が社会に与える影響

本事業によりトリプルネガティブ乳がんのみならず数々のアンメットメディカルニーズ(膵がん、胆管がん、肺小細胞がんなど)を克服する創薬のモデルケースを樹立できると期待されます。

特記事項

本事業採択発表については、2023年8月9日(水)午後2時(日本時間)大阪府知事よりオンラインにて発表されました。

支援制度名「令和5年度創薬シーズ研究開発費補助金」

事業名「新規がんマーカーを標的とするVHH創薬の高速プラットフォーム戦略(トリプルネガティブ乳がんADC創薬のフィージビリティスタディ)」

代表事業者名:

  • 大阪大学大学院 薬学研究科(創成薬学専攻 生体構造機能分析分野)https://yakubun.jp/

共同事業者名:

用語説明

*1 バイオマーカー
*2 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)
*3 アンメットメディカルニーズ
*4 アルパカ由来抗体(VHH)
*5 構造生物学
*6 抗体薬物複合体: ADC
*7 マウスモデル

SDGs目標

参考URL

本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院薬学研究科 教授 井上豪 https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e8509906c24926d2.html