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パンデミック収束以来、COGNANOでは海外出張が多くなりました。戦争の影響で航路が遠回りになり、長時間フライトです。暗い中で本を読むのは疲れるので、諦めて映画を見ることにしました。ミッションインポシブルという6話シリーズものがあるのに気づき、1フライトで「通しで観る」ことができました。シリーズものを10時間以上観るなんて、あり得ない状況です。ところが予想に反し、全く飽きがこず、むしろそのことに驚きました。今回はこのお話を。

提携予定のベンチャーとの協議のためリトアニアの空港に到着。ソ連時代の建物はほぼ駅に見えるが、これが空港。

ストーリーは、アメリカの諜報機関に勤務している主人公が悪の組織と対決し、絶体絶命に追い込まれつつ、最後は仲間たちと逆転し世界を救う話です。「達成不可能な使命」というタイトルを裏切らない危機が繰り返し迫ってきます。3本くらい見た後(つまりフライト8、9時間の時点で)、全てのシーンは繰り返しである、ということに気づきました。

  • 飛行機(ヘリ)、車、バイクという交通機関を使った追跡・逃走と、悪役との銃撃戦がコンビネーションになっている
  • 暗号機密にはパスワードが必要で、じかに聞き出さない限りハックできない(ので現代の話なのに、敵方は拷問、味方は変装などの古典的手法が必要となる)
  • 全能ぽい主人公にも仲間は必要であり、チームメンバーがそれぞれ特殊機能を補ってくれてはじめて任務達成できる(ただし予想外の裏切りを否定できない)

ドキドキは、主人公が追い詰められる状況から発生します。その発生源は、敵の残忍性?裏切りの人間関係?高所からのジャンプ?バイクや車のスピード?要塞の赤外線センサー?いえいえ、これらはドキドキを持続させてくれません。 最大の要因は「時間がないこと」です。ドキドキを駆動するのは「決定的なことが起きるまでに時間の余裕がないこと」。破壊的なことが起きてしまうまでに食い止めないといけない。しかし、手段を講じたり交渉している余裕がない。この状況は、フィクションだとわかっていても飽きない。映画製作者は、主人公を困難な状況に固定するのですが、それは「時間制約」を設定するという意味です。タイムリミットを映像化するために、時限爆弾、人質が殺される刻限、水中で呼吸ができない、という設定が多用されます。刻々と破滅が迫り、絶体絶命と思い知らされます。そのたびドキドキが止まりません。フライトの退屈さを忘れるには十分です。

運命とはタイムリミットのこと。世の中にトラブルは満載ですが、人間関係でも物理的障害でも経済的困難でもなく、時間制約が最大の課題ではないか。これは人間にとって、「時間が来ればほとんどの可能性は消滅していく」という経験と同期します。おそらくぼくたちには時間感覚が生まれつき埋め込まれている。ヒトは、過去と未来を「まるで在るかのように」認識し、記憶や空想によって、ほぼリアルな世界と捉えている。(見做しであれ空想であれ、在ると信じる)世界が破綻することを恐れ、穏やかに継続することを心から願っている、、、、ネコが毛玉に飽きないように、ぼくらは「時間制約」には決して慣れることがない。納品から寿命まで、、、、

人口200万人の小国リトアニアが力を入れているのがバイオと医学。新興産業地区に立派な病院とベンチャーエリアが建設されている。
念願だったセヴェロ・オチョア先生ご夫妻のお墓参り。ビスケー湾に面したスペイン北部の美しい村ルアルカの教会にお墓があった。海を一望する丘でしばし考えた。オチョア先生のことは後日また書きます。

「事態の避けられなさ」✖️「タイムリミット」の緊迫感から逃げられる人はいない。映画では「逃れられない!」と思う瞬間、主人公がギリギリ回避してくれます。回避しただけなのに、人生を救済したかのようなスッキリ感を与えてくれる。だから、「破綻を回避する」ことに大きな価値がある。

「破局回避」の重要性は、抗がん剤治療が急務である理由と共通しているのかもしれません。今、治療法がない8種類のガン(トリプルネガティブ乳がん、膵がん、胆管がん、肺小細胞がん、一部の脳腫瘍など)に対する抗がん剤を次々にテストに仕向けようとしており、第一弾として、大阪大学、九州大学とコラボレーションで、トリプルネガティブ乳がん向けの抗がん剤開発を開始したところです。治療法がないがんのために、世界中で少なくとも数百万人の方が毎年亡くなっています。全ての病気は人類の課題ですが、とりわけこれらに共通しているのは、

  • 比較的若い人もかかる病気である
  • バイオマーカーがないので原理的に創薬が難しい
  • 「治療法はない」と、医師は患者に告げざるを得ない

という人間世界の苦しみです。治療法のないがんにかかった時の「事態の避けられなさ」✖️「タイムリミット」は耐え難いものでしょう。患者さんにとっては「まもなく世界は終わる」のです。これらの病気(治療法のないがん)は世界70億人のうち1千万人単位で存在しています。COGNANOのバイオマーカー発掘は、あくまで要素技術です。残念ながらCOGNANOだけで薬をベッドサイドに届けることはできません。技術提携、資本提供、行政府のアドバイスやサポートを必要としています。そして何より患者さんと同じ側にいること。1千億円、10年かけて高額の薬ができるかできないか、という現状はどこか間違っている気がする。

共同研究協議のためコペンハーゲン大学のバイオ研究所に向かう。デンマーク王国のバイオ研究の生産性は凄まじい。

映画は「仲間の助けがあってこそ」と教えています。アアそうだった、そのために今日も、長時間飛行機に座っていたのでした。COGNANOのミッションは地味で長い道のりですが、理論上ポシブルです。ここまではエキスパートの有志少数でやってきましたが、今後はオープンに仲間を見つけ、社会に理解されることが何より必要になるのでしょう。ぼくたちの技術は、業界初の抗体デジタルデータに基づいているため、バイオリサーチャーや製薬フィールドにご理解いただくまで時間がかかりそうです。その代わり、IT業界を筆頭に、他業種の方に興味を持たれることが増えてきました。静かに歩を進めていくしかない。

今回のフライトでは、全ての場面において主人公の生還を確認できたのは僥倖でした。主人公は、次の作品でも「破滅回避」に成功すると高い確率で予想できます。それを確かめるため、次のフライトが楽しみになったことをご報告して、今回のブログを終ります。